Mt.FUJIの軌道上性能実証が完了
2024年8月2日午後8時32分(日本標準時)に、Mt.FUJIからのリターン(反射光)の取得に成功しました。Mt.FUJIが軌道上でSLR(衛星レーザ測距)反射器としての性能を発揮していることが確認できました。

JAXAは、小型、安価、低軌道で汎用的に使用できるSLR反射器を2017年度から開発してきました。形状が富士山に似ているため、Mt.FUJIと命名しました。2018年前半には原型が出来上がっていたのですが、搭載衛星がなかなか見つかりませんでした(*)。2023年度にJAXA第一部門がMt.FUJI担当とキヤノン電子株式会社をつなぐことで、キヤノン電子株式会社の超小型衛星CE-SAT-IEへの搭載が決まり、2024年2月22日にH3ロケット試験機2号機で打ち上げられました。その後、キヤノン電子株式会社とJAXA間でSLR実験について調整を行い、SLRに挑戦しました。そして2024年8月2日に筑波宇宙センター内のSLR局であるつくば局にてリターン取得に至りました。
これ以降も複数回にわたってSLRに挑戦し、問題なくMt.FUJIからのリターンの取得に成功しています。さらに、得られたデータを解析することで、CE-SAT-IEが搭載したGNSS受信機の性能を評価する事にも成功しています。

Mt.FUJIに限らずSLR用反射器はSLR精密軌道決定ツールとして有益なツールですが、スペースデブリ問題にも活用できないかとJAXAは考えています。どんな宇宙機(衛星やロケット)もミッション終了後は必ずスペースデブリになります。スペースデブリは、自発的には信号を出さないので軌道把握が困難です。通常、米国が公開するTLE(と言う軌道情報)でしか把握できなくなります。しかし、SLR用反射器が予め取り付けられていれば、デブリになった後も地上からの視認性を確保でき、要すれば米国情報と独立に精密に軌道把握可能です。特に、地球への再突入直前に正確な軌道把握できることはリスク管理の視点でとても有益です。

JAXAのSSA(宇宙状況把握)担当部署として、多くの宇宙機がリフレクターを標準装備するようになってほしいと願っています。
今後もJAXAは、宇宙活動における安心・安全が保たれるよう、多くの衛星、ロケットにMt.FUJIが搭載されるよう、働きかけを行っていく予定です。

(*) Mt. FUJI搭載を最初に決断されたミッションはHTV-Xです。HTV-Xが打上げの順番待ちの間に、後でMt.FUJI搭載を決めたキヤノン電子衛星が先にMt.FUJIを軌道上に運びました。HTV-Xでは、Mt FUJIを利用して単なる軌道決定だけではなく姿勢推定に挑戦します。運用中の宇宙機を用いたSLRを利用した姿勢推定実験は世界初の挑戦です。ご期待ください。
SLR用小型リフレクター「Mt.FUJI」開発背景
近年、宇宙の商用利用が盛んになり、宇宙環境の混雑化が進む中、宇宙の状況を正確に把握し、軌道上衝突を減らすことが国際的な課題となっています。そういった宇宙の状況を把握する観測手段としてレーダや望遠鏡が使われますが、それに続く第3の手段としてSLRが注目されています。SLRは、人工衛星に取り付けられたSLR反射器(リフレクター)に向けて地上のSLR局からレーザを照射し、反射して返ってきた光を再び検知するまでの時間を計測することで、SLR局と人工衛星との距離を高精度(mmオーダ)に測定するシステムです。
これまでのJAXAミッションにおいて、SLR反射器は、「衛星ミッションごとの特注品(海外製)」が使われてきましたが、特注品のため「高い、大きい、重い」といったデメリットがありました。そのため、SLR反射器を搭載する大学や民間の事業者は多くありませんでした。
JAXAが開発したSLR用小型リフレクター「Mt.FUJI」は、このような状況を踏まえ、その役割を低軌道用に特化させることで「安い、小さい、軽い」を実現したものです。
更には、より小型の「mini-Mt.FUJI」の開発も進めています。
SLR用小型リフレクター「Mt.FUJI」概要
- ●7個のCCR(Corner Cube Reflector; 入射光を来た方向に再帰反射する特殊なプリズム)を具備しており、1器あたりの視野角は45度
- ●手のひらサイズ
- ●Mt.FUJIは高度800km以下、mini-Mt.FUJIは高度500km以下が対象高度
- ●Mt.FUJIはHTV-X(FY2024以降打上)に搭載が決定済み。HTV-Xのコーンバンパパネル上に、120度間隔で計3器、視野が重ならないよう角度を調整するための専用の台座とともに搭載される

開発者の想い
「Mt.FUJI」は、2024年度以降に打上げられるHTV-Xに3器搭載し、低軌道用の汎用的なSLR反射器として十分な性能を有するか、実証実験を行います。近い将来、SLR反射器が安価に流通し、搭載宇宙機が増えれば、宇宙の状況把握や宇宙デブリの除去に貢献することができます。全ての車がミラーを搭載するのが当たり前となったように、全ての宇宙機がSLR反射器を標準装備する時代が来ることを願うとともに、「Mt.FUJI」がその礎になることを期待しています。
Mt.FUJIの量産化・普及に向けて
JAXA軌道力学チームでは、Mt.FUJIの量産化・普及に向け「宇宙機にレーザ反射器(Mt.FUJI)をとりつけて追跡しやすくしよう」という寄附金の募集を行っております。
Mt.FUJIを量産化することで宇宙版SDGsにも有効と見込んでいますが、JAXA軌道力学チームだけでは量産化の資金確保が難しい現状です。
Mt.FUJIを衛星やロケット上段に搭載し、宇宙ゴミ問題に一矢報いる事に賛同いただける方の寄附をお願いいたします。
(FY2024は寄付を受け付けておりません。FY2022、FY2023に寄付くださった方々、ありがとうございました。)

「宇宙機にレーザ反射器(Mt.FUJI)をとりつけて追跡しやすくしよう」に寄附する
(FY2024は寄付を受け付けていません)