センター長挨拶
2025年4月1日より、追跡ネットワーク技術センターのセンター長を拝命いたしました。
まずは、追跡ネットワーク技術センターの業務を簡単にご紹介いたします。

人工衛星や探査機は、宇宙に打ち上げてしまうと、地上とは電波を使って通信するしかありません。高速で移動する人工衛星や探査機と地上の通信は、地球の回転などを考慮しつつ地上の大型パラボラアンテナを継続して動かすことにより確立します。その上で、衛星の健康状態を監視するための「テレメトリ:Telemetry」情報の受信、衛星を制御するための「コマンド:Command」信号の送信、衛星がいつどこにいるかを把握するための「距離:Range」データの取得、人工衛星や探査機が観測した大容量の「ミッションデータ:Mission Data」の受信を行うのが、追跡ネットワーク技術センターの役割になります。この運用を24時間365日休むことなく実施するため、日々、設備の保守や障害対応も行っています。
また、老朽化した設備の更新を始めとして、将来に役立つ技術研究や新しいシステム(*1)の開発整備なども行っています。
さらに、人類の宇宙活動を安全に行うために、国と連携して宇宙状況把握システム(SSA(*2))を用いた宇宙状況の把握や、衛星等とスペースデブリの衝突解析なども実施しています。

私自身は、JAXAの前身であるNASDA(*3)時代に入社して、地上局(*4)設備の維持管理、将来地上システムの技術研究、衛星搭載機器の研究、衛星システムの検討、地上システムの開発整備などに従事してきました。追跡ネットワーク技術センターは、JAXAの中でも様々な技術が凝縮されたシステム(現場)を多く持ち、かつ、職員自らがそれらの維持管理、運用及びそれらの関連した研究開発が行えるといった作業環境を有し、かつ、技術の宝庫となっています。
昨今のセンター内の動きとしては、追跡ネットワーク運用の一部民営化があげられます。これまで近地球衛星(低軌道衛星、静止軌道衛星)の追跡ネットワーク運用は、JAXAが保有する地上局を使用してきましたが、設備も老朽化してきており設備維持の負荷が大きくなってきていること、更新するとしても巨額な経費を要すること、職員のマンパワーをより研究開発にシフトしていく必要性があることなどを鑑み、民間の追跡ネットワークサービス利用に移管する方針を2018年に打ち立てて検討を進め、2025年度後半より、近地球衛星に限定して民間事業者に追跡ネットワーク運用を移管することにしています。海外機関では既にそういった取り組みは行われており、JAXAもようやく追いついたという感じです。
また、JAXAでは、国、大学や企業との相互協力関係や、NASA(*5)、ESA(*6)、CNES(*7)との相互運用協力も増加してきており、深宇宙探査用地上局による民間探査機の支援や、NASA、ESAの探査機に対する本格的な支援が始まっています。さらにSSAの分野では、国との連携をより確実なものにするための取り組みや海外機関等との情報交換等も行っています。
追跡ネットワーク技術センターはインフラ組織ですので、普段あまり脚光を浴びることはありませんが、我々の活動が無ければ宇宙開発が成り立たない重要な組織と考えています。センター職員は、日々、自身の技術力を磨き、突然発生する不具合処置への迅速な対応を行うことで、品質の高い追跡ネットワークサービスをユーザーに提供し、かつ、将来を見据えた技術研究開発も精力的に行っています。
センター長の役目は、若い世代が色んなことにチャレンジできる環境を整えること、楽しく元気に仕事できる雰囲気を作ることだと考えています。
若い方々(学生さん)へのメッセージ

皆さんが抱いている夢を実現するための行動や、普段何気ない生活で問題点や課題にぶつかるときがあると思います。その時は逃げないで一歩踏み出してみて下さい。また、自分だけで解決しないで勇気を持って他人に相談したり、アドバイスを得ることも大事です。(コミュニケーション) チャレンジしているうちは失敗はありません。むしろ、諦めるときが失敗だと思っています。(Nothing is impossible)
地上システムの開発や維持は地味な仕事ですが、人工衛星、探査機、ロケットが運用できるのは、地上システムがあってのことです。それを、是非、覚えておいて欲しいです。
地上システムの開発・維持では、機械、電子、電気、電波、通信、ソフトウエアを始め、プロジェクトマネジメント、システムズエンジニアリングなど、多岐に亘る知識が必要で、しかも奥深いです。
是非とも、JAXAに入って、地上システムの研究開発・維持の業務に従事し、一緒に未来を創ってみませんか?
*1:システム…「個々の要素が相互に影響しあいながら、全体として機能するまとまりや仕組み」のことで、ここでは地上局、ネットワーク回線、地上局を制御するための関連設備の集合体と定義します。
*2:SSA…Space Situational Awareness。宇宙状況把握。運用が終了した衛星や打ち上げロケットの残骸、これらの衝突破片などのスペースデブリを観測でとらえ、軌道を決定して衛星との接近を推測する。
*3:NASDA…宇宙開発事業団(National Space Development Agency of Japan)1969年(昭和44年)10月1日に設立されたJAXAの前身である旧科学技術庁所属の組織。
*4:地上局…電波を送受信するアンテナをはじめ、その駆動設備や送受信機、電源設備などの施設をまとめて地上局と呼ぶ。
*5:NASA…アメリカ航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration)。アメリカの宇宙開発に関わる計画を担当する合衆国の連邦機関。
*6:ESA…欧州宇宙機関(European Space Agency)。1975年にヨーロッパ各国が共同で設立した宇宙開発研究機関。現在は22か国が参加。
*7:CNES…フランス国立宇宙研究センター(Centre National d'Études Spatiales)。ESAで中心的な役割を果たしている、フランスの宇宙開発研究を行う政府機関。1961年に設立。