GREAT2は、2021年5月に終了したGREAT(*1)を引き継いだプロジェクトです。

先の「はやぶさ2」をはじめ、ESA(*2)の「MPO」(*3)、NASA(*4)の「JUNO」(*5)など、海外機関の深宇宙探査支援が増えています。深宇宙の追跡管制では臼田局の64mアンテナが活躍してきましたが、ミッション数の増加やデータの大容量化に対応する新しいアンテナとして、54mアンテナを持つ美笹局が整備されました。私たちチームの目的はこのプロジェクトで十分にできなかった面を充実させ、美笹局の信頼性や運用性を高め可能性を拡大することです。

具体的な施策はまず冗長系や待機系、予備系などの整備で、これはたとえば停電しても運用停止しないために新たにNAS電池(*6)設備を設置したり、装置に万が一の不具合が発生したときのために、重要な装置を二重に備える(2系統化する)、あるいは交換可能な装置の予備を整備するなどです。また深宇宙探査では海外機関との連携も多くなりますから、国際規格に適合した外部インタフェースを付加して運用性(効率や利便性)を向上させます。

たとえば海外機関の宇宙機に異常があってそれが日本からしか見えないタイミングの場合に、ただちに支援をする。立場が逆でも同じで、互いに無償でサポートしあえれば(クロスサポート)ミッションの確実性が高まります。欧米にとっては日本に深宇宙用のアンテナがあることはとても重要なんです。でもそのためにはアンテナ設備だけでなく、国際的な通信標準のフォーマットを作ってそこに参加することが必要で、いま、この整備を進めています。ただ、参加する機関が多岐におよぶため、そのインタフェース調整はたいへんです。各ユーザの要求をとりまとめ、バランスのとれた施策を進めることを心がけています。ひとつのシステム像を構想してそれが具現化できることは、苦労が多いだけにやりがいを感じます。

さらにGREAT2は数少ない地上系のプロジェクトなので、若手には実働と成果を結びつけて学ぶ良い機会です。将来のJAXAの大型プロジェクトで、チームの若手が見せてくれるであろう活躍も楽しみです。

なお、美笹局を建設する際に地元の皆様にたくさんのご協力ご支援をいただきました。それに報いるためにも地域イベントへの協賛や施設見学の対応などの活動にも力を入れています。この美笹の54mアンテナは技術面でも高くデザインも美しい施設です。ウェブサイトでその姿を積極的に公開するなど、これからもGREAT2プロジェクトを通じて多くの情報を発信したいと考えています。

*1:GREAT…深宇宙探査用地上局の開発・整備 GRound station for deep space Exploration And Telecommunication phaseの略で、JAXAの機関プロジェクト。
*2:ESA…欧州宇宙機関(European Space Agency)。1975年にヨーロッパ各国が共同で設立した宇宙開発研究機関。現在は22か国が参加。
*3:MPO…ESAによる水星周回探査機(MercuryTransfer Module)。2018年に打ち上げられた。
*4:NASA…アメリカ航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration)。アメリカの宇宙開発に関わる計画を担当する合衆国の連邦機関。
*5:JUNO…2011年に打ち上げられたNASAの木星探査機。
*6:*7:*8:NAS電池…大規模の電力貯蔵用に使われる二次電池。負極にナトリウム(Na)を、正極に硫黄(S)を使用することからNASと呼ばれる。