2025年3月公開

宇宙開発の発展に伴って深刻化するスペースデブリの問題。その脅威から衛星等の宇宙活動を守る鍵がSSA(宇宙状況把握 *1)です 。JAXAでは2016年にSSAプロジェクトチームが立ち上がり、2023年にSSAシステムの開発を完了、運用に移行しました。本格運用はまだ始まったばかりですが、JAXAのSSAシステムやSSAに関する研究開発には多くの期待が集まっています。

スペースデブリも地球環境問題のひとつ

スペースデブリ問題に対する取組として、JAXAではルール作りから観測・軌道解析、防護、除去等様々な取り組みを行っていますが、私たちSSAチームでは主にスペースデブリの観測・軌道解析に関する仕事をしています。JAXAのSSAシステムは観測を行うレーダーと光学望遠鏡、観測データ等を基に解析を行う解析システム(SAKURA *2)の3つで構成されていまして、その開発を行っていたプロジェクトチームは2023年3月の開発完了とともに解散しましたが、私はその直後の同年4月にこのSSAチームに異動してチームリーダーを務めています。

SSAチームに来て感じたのは、スペースデブリ問題への社会的な意識の高さでした。もちろん問題の重要性は認識していましたが、国際的な問題意識の高さや一般の方々の注目がこれほど集まっているのは想像以上でした。ただ人工衛星は放送やGPS、地球観測などで私たちの生活とつながっていますから、デブリ対策は地上の人々の生活を守ることでもあるわけで、だからこそ地球環境問題のひとつとして社会一般で認識されているのだと感じます。さらに将来の宇宙開発利用の拡大、特に一般の人々が旅行等で宇宙に行くことを考えると、スペースデブリの安全上の問題はさらに重要度が増します。改めてSSAが非常に重要な仕事であると再認識するとともに、やりがいと責任の大きさを感じて気持ちを引き締め直して業務に取り組んでいます。

仕事はSSAの運用と研究開発の両輪

SSAチームでの宇宙状況把握の仕事には運用と研究開発があります。

まず運用は、レーダーや光学望遠鏡で宇宙空間を飛行する物体の観測を行うこと、観測したデータを基に観測した物体が飛行する軌道を計算すること、更にデブリと人工衛星との衝突リスクを解析し、衝突リスクが高い場合には衝突を回避するための軌道変更の計算を行い、衛星プロジェクトに提案し調整を行ったりします。また、デブリが大気圏に再突入する場合には、再突入する時期や場所の予測解析も行います。それと、忘れてはいけないこととして、SSAシステムを確実に維持・運用し、不具合のない枯れたシステムにしていくことも大事な仕事です。

研究開発では、観測や解析に関わる技術向上を行っています。例えば光学望遠鏡やレーダー観測では、観測性能の向上(観測範囲を広げる=より小さなデブリを観測できるようにする)の取り組みやこれまで把握できていないスペースデブリを観測する技術の向上等、解析では大気密度の高精度推定や軌道把握の適正化等によるデブリ衝突リスクの改善、再突入落下域の予測精度向上等の取り組みを進めています。

また、日本のSSAは防衛省さんを軸に、JAXAは技術で貢献する立場にいますので、防衛省さんとも密に連携し、業務を進めています。

いま、未来の可能性を最大限に模索

本格運用が始まってから2年弱ですが、少しずつ確実に将来に向けての進化が始まっています。例えば運用やシステム維持にかかるマンパワーやコストを効率化して、技術開発に力を注いでいくための取り組みを始めています。レーダーや光学望遠鏡では具体的な性能向上の開発にも着手していますし、5年10年先にSSAや宇宙環境改善にどんなことが求められて、私たちがどんな役割を担うのかということの議論・検討も進めています。

もちろん自分たちだけで考えていてはだめで、防衛省/内閣府さん等政府の方々、SSAのユーザーやSSA活動に取り組む民間企業の方々とも意見交換しながら、また海外動向にもアンテナを張りながら、SSAの将来構想やどういった技術開発を進めるべきか日々模索しているところです。

SSAの新しい使い方を模索していく

我々SSAチームの活動はこれまで話したことだけに留まりません。宇宙の安全保障への貢献やプラネタリーディフェンス(*3)への取り組みもあります。ここでは安全保障の話は割愛しますが、プラネタリーディフェンスでは光学望遠鏡で小惑星の観測を行っています。天体の衝突から地球人類を守ろうという活動ですが、JAXAでもプラネタリーディフェンスのチームが立ち上がりJAXAとしてこの問題にどう取り組んでいくか検討を進めているところです。その他にもロケットや衛星からの電波が途絶えた際にSSAシステムを使って軌道や姿勢を観測し、状況を把握する危機管理的な活動も行っています。

これらのように、SSAシステムの新しい活用方法を模索することについても、SSAチーム内で議論を交わしています。JAXA内外の方との連携も進めていますが、さらに様々な多くの人と協力して、斬新なアイデアを立上げていきたいですね。

挑戦課題はまだまだ膨大

いま、SSAは新たな段階に進みつつあると感じます。宇宙の活動は国だけでなく民間企業が多く進出している状況ですし、デブリ環境は恒久的に取り組むべき問題ですから、スペースデブリ対策がビジネスとして成り立つように考えていく必要があります。

また、冒頭で話したように地球の環境問題のひとつとしてとらえる意識を、もっともっと広く世界に普及していくことが重要です。ただ、規制のような形でブレーキをかけることで宇宙開発がスローダウンしないように、適切なバランスをとる必要がありますね。

技術的な観点でも、例えば現在はおよそ10cm以上のスペースデブリがカタログ化されていますが、より小さなデブリも重要な宇宙機や特に宇宙に行く人にとっては脅威になります。ただ、小さなデブリは桁違いに多くの数になること、更に精度や即応性まで求められると、軌道計算や回避運動、観測に関して技術的課題が多く出てきます。SSAシステムの開発が完了したばかりですが、宇宙開発の発展とともに将来に向けた課題は尽きず、挑戦は続いていきます。

宇宙環境問題は人類にとっての大きな課題ですから、宇宙の関係者だけでなく、様々な方々、特に未来を担う若い人達と一緒にスペースデブリ問題の改善に取り組んでいけたらと思います。

*1…SSA:Space(宇宙) Situational(状況) Awareness(把握)の略。運用が終了した衛星やロケットの残骸や、これらが衝突してできた破片であるスペースデブリを観測、軌道を把握し、管理する。広義には地球近傍小惑星把握や宇宙天気も含まれる。
*2…*SAKURA:SsA Key technology Unified Research and Analysis systemの略。レーダーや光学望遠鏡の観測計画の立案及びそれら観測データに基づくスペースデブリ等の軌道を計算する。また、JAXA衛星とデブリの接近・衝突のリスク解析や衝突回避制御立案、デブリの地球への再突入解析を行う。
*3…プラネタリーディフェンス:planetary defense。スペースガード(spaceguard)と呼ばれることもある。他天体の地球衝突から人類を守るための活動のこと。1998年頃から地球接近天体(Near Earth Object: NEO)の発見が増えて注目が集まり、2000年頃からは国際的な議論が始まっている。