2025年3月公開

追跡ネットワーク技術センターは、しばしば「縁の下の力持ち」と表現されます。ロケット打ち上げや人工衛星、探査機の活躍などに較べて成果が見えにくい部門ですが、宇宙開発にはなくてはならない仕事です。その追跡ネットワーク技術センターの仕事の中でも、さらに下支え的な業務を担っているのが運用チーム。さまざまな部門、部署や外部の組織を結んで、人工衛星や探査機の運用をコントロールする、追跡ネットワーク技術センターの司令塔と言えます。

内外の状況を踏まえ計画として落とし込んでいく

「衛星と地上とを通信でつなぐ」というのが、JAXA内での追跡ネットワーク技術センターの中心的な役割で、これは以前から大きく変っていません。でもその中で人工衛星とその技術はどんどん進歩していきますし、そのために地上の設備には手を入れるべき部分が発生します。さらに今後の技術動向から見て最も適切な追跡管制(*1)の形も変化するでしょう。このような将来の変化を見越していまやるべきことを考え、JAXA内外の状況を踏まえつつ有効な施策の計画として落とし込んでいくのが私たち「運用計画チーム」の仕事です。

計画立案の具体的な方法としては、JAXA事業の中長期目標の期間は7年なのでこれに合わせて計画の大枠を考え、細かい流動に対応できるプランを構築していきます。とはいえ7年で終わらない計画も、特に運用については多々あります。基本は一年一年の積み重ねが大事だと考えています。

新しいしくみに向けた準備が進行中

そのような中で追跡ネットワークの運用方法にも新しい局面が訪れつつあります。例えばJAXAの追跡管制設備は、整備から年月を経て古さが目立ってきています。いっぽう特に近地球軌道は人工衛星の民間利用が進み、民間企業でも追跡ネットワーク運用ができうる状況になっています。そこで民間のサービスを積極的に取り入れた新しい追跡ネットワークの運用へと切り替える方向に、追跡ネットワーク技術センター全体の舵を切っています。詳細は触れませんが今後の10年間にわたって実施し続ける新しい仕組みで、今年の9月から本格的移行のための技術調整準備や試験などが進んでいます。そのために運用計画チームもかなり長い先を見通したさまざまな計画を立てていく業務にとりかかっています。私はこの2024年の春に計画マネージャの仕事を引き継いだのですが、今まだすごく苦労しながら推進しているところです。しくみ全体を大きく変えていく仕事は、頻繁にはありませんから、そのタイミングで追跡ネットワーク技術センター全体をコントロールするチームに参加できたことは幸運ですし、やりがいも感じています。

追跡できる状態を常に続けていく

とはいえ、追跡ネットワーク技術センターの業務そのものは、あくまで衛星運用の下支えです。衛星やミッションの内容も、いつ打ち上げていつまで運用するか…という運用期間も、私たちがイニシアチブを持って決めていくわけではありません。しかし同時に、追跡管制ができなければ衛星は宇宙で働くことはできません。このあたり、ミッションを進める衛星の開発・運用担当と私たちとの間で、常に状況を踏まえて相談します。見直しを何度もくり返しながら進めていくという形です。

ですので、私たちの覚悟としては、どのようなミッションがどのような段階であっても、人工衛星や探査機をきちんと追跡できる状態を工夫して常に維持するのが使命と意識しています。何年も先を見通して計画を築いていく視点も重要ですが、状況への対応力の重要性を痛感しています。

サッカーのボランチのように適切なパスを出す

運用計画チームの中での私の役割は、ざっくりと事業計画の立案、追跡ネットワーク技術センターのとりまとめ、国内外との調整などです。このうちのとりまとめとは、ちょっと説明が難しいのですが、何かプロジェクトを発案したり立ち上げるなどする場合の、追跡ネットワーク技術センターとしての最初の窓口であり方向性を調整する役割です。追跡ネットワーク技術センターにはいくつかのチームがあり、たくさんの専門家が勤務しています。追跡の外の方が何か新しいものを企画した場合にどの部署に相談するかは悩ましいところだと思います。ですので私たち運用計画チームが最初の窓口になって、この話はたとえば軌道力学チームの誰に相談すべき…などというように、おおよその方向づけをしていくんです。そうやって、さまざまな仕事をスムーズに流れるように交通整理しつつ、後押しをしています。

サッカー経験がある方が私の仕事を「ボランチだね」とおっしゃってました。サッカーのボランチは攻撃の機転になる選手で、攻めの方法やスピードを判断して適切なプレーヤーに適切なタイミングでパスを出します。私たちの仕事はまさにそんな感じで、見かけは地味ですが人工衛星や探査機の運用という「試合」をコントロールする重要な役目です。

成果の陰に運用チームあり

役割としてはいわば司令塔なのですが、司令塔に求められるのは周囲に信頼されることだと思います。ですので周囲からの信頼をより高めるために、個人やグループの関係をバランスよく調整したり、JAXA外や海外などから有効な情報を捕まえてきて提供したりなど、さまざまな業務チームがいかにスムーズに機能できるかに心を砕きます。個人的にも、いかに頼られる自分であるかという点に努力しています。

また業務の成果という面でも、私たちのチームが成果を挙げるというかたちはありませんが、民間企業との関係を構築したり、JAXA内部で部門間を超えた連携を組立てたりという、目立たないながら重要な業務を行っています。ちょっと強気な言い方ですが、何か大きな成果があった時は必ずその陰に運用計画チームあり…ですし、そうであるべきと肝に銘じています。

得意なことを一生懸命のばせば宇宙につながる

追跡ネットワーク技術センターには衛星の軌道を計算する専門家から、アンテナを作ったり動かす専門家、電波をやりとりする技術の専門家、というようにあらゆる専門家が力を合わせています。日々の追跡管制はさまざまな分野の方々が集まってはじめて可能になる、総合技術なんですね。

いま、宇宙開発関連の仕事を夢見て勉強している学生さんもたくさんおられると思いますが、そんな方々には特に、私たちの仕事にはさまざまな入り口があることをお伝えしたいです。いま勉強していることの応用が人工衛星との通信につながっていくかも…と考えると、学んでいることがいっそうおもしろくなります。自分が得意なことを一生懸命に伸ばせば宇宙の仕事へつながる可能性がありますし、自分の人生を豊かにすると思います。

*1:追跡管制:衛星や探査機をはじめ宇宙機と地上局とを通信でつなげ、飛行を制御したり宇宙機からの情報を受け取ること。