私たちの仕事は、JAXAが保有する地上局やネットワークを駆使して多くの衛星の追跡管制を確実に実現することで、その内容は多岐にわたりますが、追跡ネットワークの運用業務と維持業務が2つの柱となっています。

衛星の追跡管制では、アンテナ地上局が地平線から上ってくる衛星を電波で捉え動きを追いかけ(捕捉追尾)、指令信号(コマンド)の送信、衛星からの情報(テレメトリ)の受信、また電波で衛星の距離を測定するレンジング(*1)を行います。これらを「パス運用」と呼びます。

「運用業務」では、まず、衛星プロジェクからの要求を受けて、いつどのアンテナをどの衛星に割り当てて追跡管制を行うかという計画を立案・調整します。作成した運用計画は自動的に実行されますが、筑波宇宙センターの中央管制室では現地気象状況を含む地上局の状態、ネットワークの各装置や通信回線の状態などを確認しつつ、パス運用が正常に行われるかを監視します。そして不測の事態が発生すれば状況の調査・復旧、運用計画変更など必要な作業を行います。

「維持業務」は、追跡ネットワークを構成する地上局や各装置、通信回線などが機能・性能を保ち、常に使える状態であるよう日常のメンテナンスをしたり、計画的に点検や更新を行う仕事です。維持の面で特に気を使うのは設備の老朽化への対応で、限られた予算の中で性能と信頼性が維持できるよう、故障の傾向や履歴を参考に、更新や点検をするタイミングや間隔を見極めるのがポイントと考えています。

この仕事は「自然との戦い」の側面があり、台風通過時や大雪、地震発生後などは、設備が壊れていないか、点検が終わるまでやきもきした気持ちで連絡を待つことになります。外国では暴動や山火事などにより通信回線が切れることや、最近ではコロナウィルスの関係で修理や更新のため現地に渡れず困ることなどもあり、技術以外の面でも心配の種は尽きません。

このように、追跡ネットワークは衛星を使うための基本インフラとして必要不可欠な存在です。それを維持し利用者にサービス提供するため、私たちは運用業者、設備・装置メーカーの方々などの協力を得ながら、我が子を見守る母のような気持ちで日々業務に当たっています。

*1:レンジング…電波による距離の測定。衛星では通信電波の往復時間から距離を計測し、そのデータから衛星の軌道を推定する。
*2:クリティカルフェーズ…衛星の打上げ・軌道投入後の最初の数日間。太陽電池パネルやアンテナの展開、姿勢確立など重要なオペレーションが続くため、集中的な監視が必要。