近年、先進光学衛星(*1)など大量のデータを地上に送る衛星が登場しています。
膨大な容量のミッションデータを高速でダウンロードするには、より高速な通信が必要です。この要求に応えるために開発したのが、Kaバンドアンテナです。直径5mと小型ながら、これまで使われているXバンド(約8GHz)より周波数の高いKaバンド(約26GHz)に対応することで、従来の2~4倍の通信速度を可能にしています。
周波数帯を上げることは、衛星の増加により起きやすくなる電波干渉を避ける意味もあります。しかし降雨が多い日本の気象条件では降雨時の減衰が大きく安定したデータ伝送が困難です。そこで国内施設でKaバンドでの高速通信を可能にするため、多数の技術的な工夫を盛り込んだのが新しいKaバンドアンテナです。例えばそのひとつがサイトダイバーシティという考え方。具体的にはKaバンドアンテナを地上の2ヶ所(筑波と鳩山)に配備して、同一の衛星から2局同時にデータを受信します。
一方で天候の影響があってももう一方でカバーできるよう、2局が補い合って通信する仕組みです。この新しいアンテナのシステムにより、降雨時の対応が可能になります。
また、現在進めている研究の中で期待を集めているひとつがDTN技術(*2)です。これは宇宙機(人工衛星や探査機)同士や、宇宙機と地上との間のデータ受け渡し方法(プロトコル)などを工夫して、通信途絶に強いネットワークを実現する技術です。簡単に言えばインターネットのような通信環境を宇宙にまで広げることです。しかし、地上と異なり宇宙では電波が伝わる距離がたいへん長くなるとともに、通信できる時間に制約があることから、信号の遅延や途絶が発生する環境で確実にデータを伝送することが必要になります。この問題を解決するために世界規模でプロトコルや最短時間でデータ伝送できる経路を算出する方法(ルーティング)の標準化など、データの完全性を担保するための工夫は難題が多いですが、現在実現できているソフトウェアレベルでの技術をハードウェア化(ICチップに実装)しての実証実験を進めるなどの世界でも最先端の研究を行っています。
これら新技術をはじめ多数の開発を手がけてきましたが、追跡管制や宇宙機の高度化により技術的なハードルは日々上がっていきます。JAXAが、日本の宇宙開発が世界トップレベルで走り続けるために、私たちも研究開発に日々奮闘しています。
*1:先進光学衛星…陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)など、高精細な光学センサによる観測で高分解能の画像データを送信する衛星。
*2:DTN…遅延耐性/途絶耐性ネットワーク(Delay/Disruption Tolerant Networking)