人工衛星などの宇宙機との間で通信を行う為に地上に設置するパラボラアンテナとデータ送受信装置等を合わせて、「地上局」と呼んでいます。地上局は通信する人工衛星に合わせてそれぞれ特徴を持っており、周波数帯、アンテナの大きさ、設置場所、役割・運用方法は様々です。(下図参照)
追跡ネットワーク技術センターでは日本国内、海外の拠点をネットワーク接続し人工衛星等の運用に対応しています。
追跡ネットワーク技術センターで運用中の地上局はS 帯(2GHz帯)やX 帯(8GHz帯)の周波数帯を用いていますが、現在、新たにKa 帯(26GHz帯)の通信を可能とする地上局2基を開発・整備中です。
(※)TT&C通信:Telemetry, Tracking and Command通信の略。衛星の軌道(位置・速度)を把握・予測して衛星を追跡し(トラッキング)、
衛星の健康状態を監視するための状態データ(テレメトリ)を受信したり人工衛星を制御するための指令(コマンド)を送信したりする運用。
人工衛星等とのデータ送受信に利用する電波の周波数は、S 帯(2GHz帯)、X 帯(8GHz帯)、Ka 帯(26GHz帯)などに分類されます。各周波数帯を比較した場合、高い周波数ほどデータ伝送に使える周波数帯域を広く割り当て可能なことから、S帯<X帯<Ka帯の順にデータ伝送を高速に行うことができます。今後打ち上げられる先進光学衛星(ALOS-3)や、先進レーダ衛星(ALOS-4)には、観測データ大容量化に伴うデータ伝送高速化に対応する為にKa帯を利用した通信システムが搭載されています。これら地球観測衛星の観測データ受信を行うため、最大4Gbpsという高速データの受信を実現する「Ka帯受信システム」の開発・整備を進めています。
Ka帯受信システムの運用は、追跡ネットワーク技術センターが運用する他の地上局と同様に筑波宇宙センターの追跡管制棟にある追跡中央管制室から遠隔で行います。
Ka帯受信システムのアンテナ口径は5mであり、可搬可能な構成としており現在追跡ネットワーク技術センターが運用中の地上局の中ではもっとも小さいものとなります。しかし、1度に受信できるデータの量は、S帯やX帯の電波を用いる他のアンテナよりも格段に多く、Ka帯受信システムが整備されることで宇宙でもギガ通信の時代に突入します!
現在、2020年度整備完了を目指して筑波宇宙センター(茨城県つくば市)と地球観測センター(埼玉県比企郡鳩山町)にKa帯受信システムの開発・整備を進めています。
↑整備中のKa帯受信システム
↑アンテナは折り畳んで運ぶことができる
高速データ伝送を行うことができるKa帯ですが、通信路中の降雨等が発生した場合など気象条件によっては人工衛星との通信が途切れてしまうという課題もあります:降雨減衰(※)。この課題に対応するため、このKa帯受信システムでは、アンテナを筑波宇宙センターと地球観測センターにそれぞれ地上局を設置することで、サイトダイバシティ(地点冗長化)構成を実現しています。これにより、衛星運用時には気象条件がより良い方のアンテナを選択することができ、降雨減衰の影響をできるだけ回避しながらミッションデータを受信することが可能となります。
(※)空気中の雨粒により電波が吸収・散乱され、弱まる現象